2025年6月10日火曜日

動物が話す話①

大学を卒業した後、就職した会社が遠かったので都心から少し離れた場所で一人暮らしを始めた。
当初は日々の体験が新鮮で、実家の自室と同じくらいのワンルームの部屋も、スーパーでの買い出し、掃除や洗濯、1時間ほどかかる会社と自宅の往復も苦ではなかった。
満員電車も、初めは辛かったけど次第に上手い具合に力を抜いて立っていられるコツを得ていた。
しかし、半年もすると徐々に毎日の繰り返しが苦痛で面倒だと思うようになった。
だからといって休日に何か新しい事をするやる気も出ない。
自分から何かを変えようと、いつもは通らない商店街を歩き回った時に見かけた花屋で、売っていた小さいサボテンを買ってみた。
少しでも生活に変化が欲しかったのかもしれないが、その程度で意識が変わるようなものでも無かった。
サボテンへの水やりも、すぐに繰り返す日常の一部と化していった。

ある日、会社でいつものように頼まれた見積もりや提案資料を纏め、昼に食事用のスペースへ。
コンビニで買ったサンドイッチのフィルムを開けていると、隣のテーブルに居た女性社員2人から、飼っている動物の話をしているのが聞こえた。
猫を飼い始めて世話が大変だけど、生活に張り合いが出てるような気がする、といった事を話していた。
その時は特にそれ以上気にかかることも無く、いつも通り食事を終えると席に戻って資料の続きに手をつけた。

それから数ヶ月、休みの朝に寒さを感じ始めた頃にたまたま見たYoutubeのおすすめ動画で、お買い得なコートがユニクロで売っていると知った。
他に用事も無いので、電車で隣町へ向かう。
ショッピングモールで目当てのコートを見つけるも、言うほどかなぁとイマイチしっくり来なかったので、軽く店内を見て回った後に何も買わず店を出た。
せっかく足を伸ばしたところで昼を食べて帰ろうかと考えていた時、モール内にあるペットショップに差し掛かったところで足が止まる。
特に何かを飼うつもりもないけど、昼まで時間があったのでペットショップを覗いて行くことにした。
店内は動物園で嗅いだような匂いが少しだけしたが、何故か不快な感じがしなかった。
しばらく色々な動物を見ていると、ふとハムスターの飼育ケージに目が止まった。

犬猫ほど飼うことに負担が無いはず。
ケージの中のジャンガリアンハムスターを見ていると、寝ていたり、回し車に乗っていたり、
外を不思議そうに眺めていたりしている。

僕はハムスターのそれらの仕草が何かしら考えて行動している様に見えて、しばらく様子を見ていた。
その後、店内を少し見て回った後にその日は昼食を取って帰った。

その夜、寝る前の空いた時間にいつものようにYoutubeでおすすめ動画を見ようとしていた時、思い出したようにハムスターの飼育について調べることにした。

寿命は種類にもよるが2年ほど。気温には気をつけなければならないが、餌と水、トイレの処理を怠らなければそこまで大変ではないと載っている。
ペットショップのオンラインサイトを見ると、ケージや床材、餌も大した額ではない。
2階建てのケージもあり、ハムスターのサイズから考えると僕が住んでいるワンルームより広いんじゃないか、なんて事を考えながら関連商品をしばらく眺めていた。

「ペットを飼うと、生活に張り合いが出る。」
あの言葉が頭の中で無意識に反芻していた。
今思えば、僕は密かにハムスターを飼うことを既に決めていたようだった。

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